手動式活版印刷機による作品です。1種類の斜線の版を使用し、C(シアン)M(マゼンダ)Y(イエロー)の3色を印刷。給紙する際に正方形の紙を90度回転させて印刷することで、斜線が重なり合いながら1枚1枚が違う図像を作り出しています。
それぞれのインクが重なることで別の色を生み出し、さらに角度を変えて多層的に広がっていく過程を1枚のポスターにおさめています。
印刷は「ひとつのものから同じもの」をたくさんつくるという複製技術ですが、古い手動式印刷機を使うことで「ひとつのものから違うもの」をたくさんつくるという本来の意味とは逆行したアプローチを試みました。
印刷という技法は、本来同じものを量産し、情報を広く遠くに伝える複製のための技術です。
複製の手法は時代とともに、より高速なオフセット印刷、デジタル化と進化していきました。
デジタルはインターネットを通じて一瞬で世界の裏側にまで複製することができるようになり、利用者自らが複製(コピー・ペースト)もできるとても便利なものに発展しました。
手動式の活版印刷機はデジタルの利便性とは程遠く、通常のオフセット印刷よりも遥かに印刷スピードは遅く、生産数量も少ない、完全に時代に取り残された印刷機です。
ただ、なぜかよくわからないですが、この活版印刷機でつくられた印刷物、紙とインキで印刷されたものにはデジタルでは得られない独特の魅力があります。その魅力が何なのかを探っていく過程として、今回の作品を製作しました。
TOTOギャラリー・間で開催された『中山英之展, and then』で上映された映像に、アトリエで作品を製作している様子が撮影されています。偶然にも「重ねていく」という行為が映像作品ともリンクしています。あわせて書籍『建築のそれからにまつわる5本の映画』の中にも収録(film 4 家と道)されています。